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弁護士への質問 見つかりました 50
刑法上、心神喪失(刑法第39条1項)状態で犯罪行為に及んだ者は責任能力がないとして罰せられず、心神耗弱(同条2項)の場合は責任能力が著しく減退しているとみなされ刑が減軽される可能性があります。ここでいう心神喪失や耗弱とは精神障害や薬物影響などで事理弁識や行動制御が著しく困難な状態を指し、医学的な鑑定を含めて裁判所が総合判断します。仮に心神喪失と認定されれば無罪となりますが、実際には『触法精神障害者』として医療観察法に基づく入院措置などがとられる場合もあり、社会復帰には別のプロセスが必要です。
強制わいせつ罪(刑法第176条)は、性的意図をもって暴行・脅迫し、被害者の身体にわいせつ行為を行う犯罪ですが、手のひらや腕などに触れただけでも、その行為が性的自由を侵害する目的と認定されれば該当します。しかし、痴漢を疑われるような接触でも偶然の接触や混雑で押されただけなら『わいせつ目的』がないと判断され、強制わいせつは成立しません。重要なのは行為者に性的な意図があったかどうかと、被害者が性的羞恥や嫌悪感を抱く部位に触れられたかなどの事情です。被告人側が「偶然ぶつかっただけ」と弁明しても、防犯カメラ映像や被害者の証言から故意が推定される場合もあります。
遺棄罪(刑法第217条)は、自己の占有する者を遺棄する犯罪で、例えば、保護されるべき人(例えば乳幼児や病人)を安全でない場所に放置するなどの行為が対象となります。一方、保護責任者遺棄罪(刑法第218条)は、親や介護者など特別な保護義務を負う立場にある者が、その義務に反し被保護者を放置して危険にさらす行為を処罰するものです。親が子供を長時間放置して栄養失調や熱中症で命が危険にさらされた場合は、保護責任者遺棄罪が該当する可能性が高く、さらに死亡結果が生じれば保護責任者遺棄致死罪として重い刑が科されるリスクがあります。
刑法では、一定の重大犯罪について『未遂犯』を処罰対象としています(刑法総則及び各則に規定)。例えば殺人罪や強盗罪では、結果として殺害や強盗が完遂しなくても、行為者がその結果を発生させようとした行為が明確に認められる場合に未遂罪が成立します。未遂犯は既遂犯ほど重大ではないものの、実際に犯罪結果を生じさせようとした危険性が高いため、刑罰が科されるのです。もっとも、既遂犯よりは刑が減軽される場合が多いです。また、準備段階だけで終わった場合にどこまで未遂に該当するか、あるいは単なる予備罪として扱うかは行為態様の具体性によって左右されます。
器物損壊罪(刑法第261条)は、他人の財物を損壊または傷害する行為を処罰対象とするものですが、人身に対する傷害ではなく物に対する罪です。そのため、器物損壊行為の結果として人にケガを負わせた場合、直接『器物損壊致傷罪』という独立した罪名は存在しません。ただし、損壊の際の手段(たとえば爆破など)で人が傷ついた場合には、その部分は別の罪(傷害罪や過失傷害など)として問われる可能性があります。要するに、器物損壊と人身傷害は別に構成要件が定められており、両方が発生したら併合罪もしくは刑法総則に基づき処理される仕組みです。
他人から急迫不正の侵害を受けたとき、やむを得ず行った反撃が正当防衛(刑法第36条)として認められれば違法性が阻却されて処罰されません。しかし、反撃が侵害をはるかに超える程度まで行き過ぎた場合は過剰防衛となり、結果的に責任が問われる場合があります。実務では『急迫不正な侵害』の存在と、反撃手段が『防衛のためにやむを得ない程度』であるかどうかを総合的に判断します。たとえば相手が素手で殴ってきたのに刃物で命を奪ってしまったとなれば、過剰防衛が認定される可能性は高いです。
脅迫罪(刑法第222条)は、相手に『生命・身体・自由・名誉・財産』などに対する害悪を告知し、それによって畏怖を与えることを要件とします。この告知は具体的であるほど脅迫を立証しやすいですが、必ずしも日時や方法まで明確である必要はなく、相手が畏怖を抱くほどの重大な害悪の内容が示されていれば成立し得ます。例えば『お前を半殺しにしてやる』や『家に火をつけるぞ』などは典型的な脅迫と判断されやすいです。一方で抽象的に『覚えとけよ』だけでは脅迫と認められるか微妙で、裁判例も文脈や相手との関係を総合的に考慮しています。
インターネット上で相手を脅迫したり、誹謗中傷を繰り返す行為も刑法上の脅迫罪や名誉毀損罪に該当する可能性があります。電子メールやSNSのメッセージであっても、公然性の要件を満たすかどうか、相手を脅迫する内容であるかなどによって罪名が変わってきます。例えば、『殺す』など具体的な害悪の告知があれば脅迫罪が成立しうるし、不特定多数が閲覧できるSNSに相手の名誉を傷つける投稿をしたら名誉毀損罪として警察沙汰になることがあります。たとえ匿名アカウントでも捜査機関が通信履歴を照会すれば特定される可能性が高いです。
刑事手続きで被疑者・被告人には黙秘権(憲法第38条、刑事訴訟法第311条など)が保障され、自分に不利益な供述を強要されることはありません。刑法上も、自白を拷問や脅迫によって得る行為は違法であり、仮に警察や検察が強要した場合は職権濫用や特別公務員暴行陵虐罪(刑法第195条など)で処罰される可能性があります。黙秘権を行使しても不利になることはないと理論上はされますが、現実には捜査段階で黙秘すると捜査官が威圧的な態度をとるなど問題が指摘されがちです。被疑者としては弁護士を通じて黙秘権の行使や取り調べ可視化を求めることで不当な強要を防ぎやすくなっています。
自動車運転による死傷事故は、かつて業務上過失致死傷罪や危険運転致死傷罪として刑法の枠内で処罰されていました。しかし交通事故の重大性や運転者の責任をより厳格に問うため、2014年に『自動車運転死傷行為処罰法』が施行され、危険運転致死傷や過失運転致死傷などが独立した法体系で規定される形となりました。これにより、アルコールや薬物の影響下での運転、著しく危険な運転行為などを厳しく処罰する一方、通常の注意不足による過失運転致死傷も同法で包括的に扱っています。刑法とは別立ての法律にすることで交通事故に特化した規定を整備し、国民に周知しやすくした面があります。